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岡山大学医学部第一外科開講100周年記念誌から抜粋

2024.05.19

メディア情報

おおもと病院と共に20年第一外科の思い出とともに

岡山大学医学部第一外科開講100周年記念誌 2022年
おおもと病院と共に20年第一外科の思い出とともに
おおもと病院 理事長・院長
磯﨑 博司(昭和49年入局)

 昭和49年(1974年)に岡山大学を卒業、第一外科に入局、高知県立中央病院、土庄町立中央病院、姫路中央病院に勤務した。その後、岡島邦雄先生が大阪医科大学一般・消化器外科教室の教授に赴任されたため、卒後7年目に同教室に入局し、結局17年間を教室員として過ごし、研究や学会活動、論文作成などに奔走した。その間、昭和63年(1988年)から1年間フランスパリ大学 肝胆道移植外科部門(ビスムート教授)に留学した。平成10年(1998年)より、24年ぶりに、岡山大学に第一外科講師としてもどることとなった。きっかけは、横浜市立大学主催の講演会で講演する機会を得て、同席演者が田中紀章教授(第一外科)と三輪晃一教授(金沢大学第二外科)であったことである。ここで田中教授と初めてお目にかかることが出来、また、この時の三輪教授の胃癌に対するセンチネルナビゲーションの革新的術式にも衝撃を受けた。

 第一外科教室にもどって、医学部野球部出身の第一外科連中、門脇嘉彦(平3入局)、中尾篤典(平4入局)、尾崎和秀(平5入局)、宇野 太(平8入局)先生たちが歓迎会を開いてくれた。この野球部歓迎会は突然で、本当に嬉しかった。故郷に帰った気がした。私が第一外科に入局した当時、元野球部は私一人であったが野球部出身者が第一外科に多いのに驚いた。昭和49年の入局時、医局対抗野球に負け、当時の故・藤井康宏医局長(昭35入局)に飲み屋でこっぴどく怒られたのを思い出した。医局対抗野球には結構真剣になった。この当時は49歳であったが、大阪医大では、前年まで現役で医局対抗野球に6連覇していた。学生時代は1番センターが多く、医局対抗野球でも皆が気を使ってくれて1番センターが多かった。そして遂に平成12年の医局対抗野球で優勝した(詳細は開講記念会誌に宇野君が面白く紹介してくれている)。バッテリーは投手・吉田龍一(平12入局)と捕手・宇野(平8入局)、内野の中心は児島 亨(平11入局)君らであった。医局対抗野球は整形外科や脳外科が強く、第一外科が優勝した記録は当時なく、その後も優勝した報告もないので、私の記憶ではこれ一回のみと思う(写真1、記念集合写真の中央で優勝賞状をもっているのが私)。

 岡山大学では第一外科と中央手術部で5年間を過ごしたのち、平成15年(2003年)おおもと病院に就職した。今まで、蓄積した研究や臨床の経験を世に生かせる絶好の機会だと思った。

 おおもと病院は(写真2)、昭和52年(1977年)、山本泰久先生が作られた病院で、医師は第一外科西研究室で山本先生が指導された4人(故・岩藤真治、酒井邦彦、石原清宏、庄 達夫)先生方であった。1988年に医療法人天声会おおもと病院となった。天声とは山本先生が師匠の陣内傳之助先生より賜った記念メスの名である。現在は乳癌や消化器癌を専門とする病院として、病床数は51床、現在まで約6700例の乳癌、1780例の胃癌の手術、そして年間、6000例前後の上下消化管内視鏡検査を行っている。

 おおもと病院は開院当初より盛況で、1年後には病床を50から120まで増やし、4年後より大阪医大から研修医が派遣された。常勤としては大阪医大からは故・石賀信史、村上茂樹(鳥取大卒)、香川医大から髙間雄大、第一外科から梅岡達生(平6入局)、竹田正範(平10入局)、松本 柱(昭60入局)先生たちが加わった。

 私が、おおもと病院に就職してからもうすぐ20年となる。大阪医科大学時代は、一般・消化器外科であり、守備範囲は広く、色々な手術を経験した。特に、フランスから帰国後は肝胆膵の主任も兼任していたので、おおもと病院でも消化器癌の多くを担当させてもらった。乳がんは当時、山本先生が多くを執刀されていたが、後年は私も執刀する機会を多く得た。

 平成13年(2001年)の第一外科の出来事年表に、「胃がんに対しての鏡視下手術、センチネルノード・ナビゲーション・サージェリー、機能温存手術の積極的取り入れ」とある。ここで第一外科でのセンチネルノード多施設研究から、おおもと病院に続いた胃がんに対するセンチネルノードナビゲーション手術の経緯について触れておきたい。

 先に述べたように、三輪教授の胃癌に対するセンチネルナビゲーションの術式には衝撃を受けたが、岡山大学に帰局して、田中紀章教授にEGI外科手術手技研究会の立ち上げを命じられた折、第一外科の関連病院で、胃のセンチネルノードの多施設研究を申し出た。そして、16施設にお願いして144例を集積した(2000~2002年)。その結果、早期胃癌における偽陰性は低率であり、十分臨床応用可能との結論だった。胃癌学会誌のGastric cancerに発表し(文献1)、西記念賞をいただいた。

 おおもと病院に赴任して考えたのは、「これで終わったのでは、患者さんにそのメリットを還元できない」との思いであった。そこで、早期胃がんに対するセンチネルノードナビゲーション手術の臨床応用を開始し、徐々に症例を集積した。だが、胃切除後障害程度や術後QOLの包括的で確かな評価法がなかった。その折、2013年、胃外科・術後障害研究会で胃切除後障害評価質問表(PGSAS-45)が作成された。私は、患者さん達にこの質問表を渡し、回答を得たがその解析方法が解らなかった。そこで慈恵医科大学の中田浩二先生に協力をお願いして統計学的解析をして頂いた。その結果、当院のセンチネルノードナビゲーションによる縮小手術後のQOLは極めて優れていた。苦労の末、Acta Medica Okayama に採用された(文献2)。

 センチネルノードナビゲーションによる縮小手術の生存成績もきわめて良好であり、2019年、日本消化器外科学会の英文誌であるAGS(Annals of Gastroenterological Surgery)に採用掲載された(文献3)。

 このようにセンチネルノードナビゲーションは、独自の結果として、センチネルノードの高い正診率(低い偽陰性率)、術後QOLの向上(標準手術より良い)、高い生存率(標準治療と同等)の3つが証明され完結した。

 乳がん診療については、山本先生は高齢になると私に手術依頼することも多くなったが、一方では、先生は開院以来のデータを乳がん登録データベースに全症例を打ち込むことを続けていた。私も自分で執刀し、患者を担当することが多くなると、調べたい臨床上の疑問が生じた。そこで、乳がんの腋窩リンパ節郭清後リンパ排液と手術手技に関する論文(文献4)、術前の針生検(CoreNeedle Biopsy, CNB)で非浸潤乳癌と診断された場合の術前画像と外科療法(文献5)、粘液癌の臨床像(文献6)、の3つの論文を書き、専門医試験に無事合格し、今年(2022年)1月からは当院3人目の乳腺専門医になることが出来た。

 これら乳癌の3論文を書いて、なによりも嬉しかったことは、おおもと病院の開院以来の乳癌症例がこれら論文の中に生きたことである。  創設者の山本泰久先生は昨年(令和3年、2021年)の11月5日ご自身のお誕生日に90歳で退職された。

 山本先生が私に残した言葉として、「自分の年まで(私の場合あと17年)頑張れ」とのことであった。現在は医療法人の形態を“持ち分あり”から“持ち分なし”に移行した。現在の体制としては、医師常勤、磯﨑、松本、村上、髙間、石原、非常勤、庄、瀧上隆夫、菊地覚次、田淵陽子である。また昨年は野木祥平君(平29卒)、今年は森分和也君(平30卒)の優秀な後期研修医も派遣していただいた。もう築45年の老体病院である。今後の新築を含めた病院の在り方を検討中である。

(文献)

1. Isozaki H, et al. : An assessment of the feasibility of sentinel lymph node-guided surgery for gastric cancer. Gastric Cancer (2004) 7:149-153

2. Isozaki H, et al. : Diminished Gastric Resection Preserves Better Quality of Life in Patients with Early Gastric Cancer. Acta Med Okayama (2016) 70:119-130

3. Isozaki H, et al. : Survival outcomes after sentinel node navigation surgery for early gastric cancer. Ann Gastroenterol Surg (2019) 3:552-560.

4. Isozaki H, et al. : Impact of the surgical modality for axillary lymph node dissection on postoperative drainage and seroma formation after total mastectomy. Patient Saf Surg (2019) 14:13:20

5. Isozaki H, et al : Significance of Microcalcifications on Mammography in the Surgical Treatment of Breast Cancer Patients with a Preoperative Diagnosis of Ductal Carcinoma in Situ by Core Needle Biopsy. Acta Med Okayama (2019) 73:349-356.

6. Isozaki H, et al. : Mucinous Carcinoma of the Breast: Clinicopathological Features and Long-term Prognosis in Comparison with Invasive Ductal Cancer. A Single Hospital’s 30+-year Experience. Acta Med Okayama (2020) 74:137-144