主な疾患と治療法(診療内容)Treatment Details

乳がんについて

2019年の全国がん登録データによると、乳がんは女性が患うがんの中で最も多いがんで、生涯に乳がんを患う女性は9人に1人と推定されています。当院は、岡山県内でも屈指の症例数と実績を持つ乳がん治療施設です。乳腺専門医と認定放射線技師が常勤で在籍し、乳がん検診認定機関・乳がん精密検診機関にも指定されています。毎年コンスタントに100~130件程度の乳がん手術を実施してまいりました。

診断の流れ

乳がんの診断のきっかけは、胸のしこりや乳頭異常分泌などの自覚症状、また、検診で異常が指摘される無症状の方もいらっしゃいます。異常が疑われる場合、以下の画像診断が行われます。当院では、ご来院いただいた当日に以下の検査が可能です。

検査1画像検査

マンモグラフィ乳房を圧迫してレントゲンを撮る検査です。40歳以上の女性は定期的に受けることが推奨されています。

乳腺超音波検査超音波を使用し、乳房を観察する方法です。40歳代以下の若い女性や、マンモグラフィでは見つけにくいしこりの検出に有効です。

検査2病理組織検査(通常、すべて局所麻酔下で行います)

画像診断で乳がんの可能性がある場合、異常部位から組織を採取し、顕微鏡で癌細胞の有無を確認します。この検査には以下の方法があります。

針生検(core needle biopsy:CNB)病変に針を刺し、組織を採取する方法です。

吸引式針生検(vacuum-assisted biopsy:VAB)病変に針を刺し、吸引することでCNBよりもより多くの組織を採取することができます。ただし、CNBよりも高額で、3割負担の保険診療の場合は22000円かかります

切除生検CNB、VABでも診断がつかなかった時に用いられる方法で、病変をまるごと切除して病理検査を行う方法です。

検査3その他の画像検査

上記で乳がんと診断がついた場合、乳癌のリンパ節転移や遠隔転移を確認するために、CTスキャン、PETスキャンなどの追加の画像検査が行われます。また、マンモグラフィーや超音波検査で発見できない病変や、病気の広がりが判りづらい病変の場合は、MRI検査を追加することもあります。それらの検査を行うことで、乳がんの進行具合(病期)が決定します。

治療の流れ

がんの治療の流れは、がんの進行度、患者さんの健康状態、乳がんのタイプなどによって異なります。診断で得られた情報から、図のように治療方針が決定します。※遺伝性の乳がんが疑われる患者さんには、BRCA1/2遺伝子検査のご説明をする場合があります。治療術式の選択や抗がん剤の選択、遺伝性乳がん卵巣がんの診断においてとても重要な情報です。
※遺伝性の乳がんが疑われる患者さんには、BRCA1/2遺伝子検査のご説明をする場合があります。治療術式の選択や抗がん剤の選択、遺伝性乳がん卵巣がんの診断においてとても重要な情報です。

治療1手術療法

がんの基本的な治療は、がんを切って取り除くことと言えます。乳がんの手術の場合、以下の手術方法があります。

乳房切除術がんの存在する乳房全体を取り除く手術方法です。がんが広範囲に及んでいる場合や乳房温存手術が難しい場合、また、術後放射線治療に通えない場合や、遺伝子検査にて乳房摘出が適していると考えられた場合に行われます。

腋窩リンパ節郭清術腋窩とは脇のことで、乳がんの癌細胞がリンパ節転移を起こしやすい場所です。術前に腋窩にリンパ節転移が疑われる場合、乳房に対する手術と同時に行われることがあります。

センチネルリンパ節生検センチネルリンパ節とは、がん細胞がリンパ液の流れに乗って転移するときに、最初にたどりつくリンパ節のことです。術前の画像検査で転移が疑われるリンパ節が認められない場合、乳房に対する手術と同時にセンチネルリンパ節生検というものを行います。手術中に同定したセンチネルリンパ節を病理検索し、転移の有無を顕微鏡レベルで調べます。
上記の手術のほか、乳房再建をご希望される患者様には、乳房再建術を行う場合があります。当院では川崎医科大学附属病院形成外科のご協力のもと、乳房再建術を行っております。ご希望される患者様はその旨もご相談ください。

治療2薬物療法

乳がんに対する薬物療法で使われる薬には主に、ホルモン療法薬、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。どの薬を使用するかは、主に乳がんのタイプ(サブタイプ分類)によって決まります。また、抗がん薬の有効性を予測し、薬物療法をより効果的に行うために、遺伝子検査でがんの特性を遺伝子レベルで解析する場合があります。
当院では、患者様のご希望や生活スタイルに加えてがんの個別の性質に合わせた治療を提示することができます。抗がん剤と聞くと、髪の毛が抜ける脱毛のイメージがあると思いますが、実際に乳がんの抗がん剤には、脱毛が必至なものが多くあります。この脱毛を予防するために、当院では岡山県で唯一頭皮冷却装置(Cell Guard)を導入し(2024年8月現在)、脱毛予防の実績をあげてきました。脱毛が少なくなるのと同時に、髪が再び生えるのが早くなります。

抗がん剤による脱毛予防のための頭皮冷却装置(Cell Guard)

治療3放射線治療

放射線治療は、がん細胞を破壊するために高エネルギーの放射線を使う治療法です。乳がんの治療においても、再発予防や局所的ながんの制御に広く用いられています。特に乳房部分切除術を受けられた場合、原則実施することがすすめられています。

以上が乳癌の診断・治療についての基本的な流れです。乳がん治療には、早期発見と早期治療が肝要です。定期的な自己検診と専門医による検診を心がけましょう。乳房の病気に関しては「検診を受けたい」「相談したい」という気持ちはあっても、受診することに抵抗を感じる方は少なくありません。当院では、気軽に受診でき、どんな些細なことでも相談できる環境づくりを大切にしています。安心して受診していただけるような対応に努めてまいりますので、ぜひお気軽にご相談ください。

線維腺腫

線維腺腫(せんいせんしゅ)は、乳房にできる良性の腫瘍の一つで、特に若い女性に多く見られます。

線維腺腫の原因と特徴

腫瘍は、乳腺と線維組織が増殖してできるもので、触ると丸くて弾力があり、動かしやすいしこりとして感じられることが多いです。痛みはほとんどなく、しこりの大きさは通常1〜3センチ程度ですが、まれにそれ以上に大きくなることもあります。

線維腺腫の治療

線維腺腫は乳がんとは異なり、悪性ではないため、一般的には治療の必要はありません。画像検査を行い、線維腺腫の可能性があると病変を指摘されてもほとんどは経過観察ですみます。しかし、大きさが増大傾向にあるものは針生検による確定診断が必要な場合もあります。また、急速に増大する可能性がある巨大線維腺腫(若年性線維腺腫)のケースでは、手術で摘出する場合もあります。しこりが急に大きくなったり、形状が変わったりした場合は、医師の診断を受けることが推奨されます。

葉状腫瘍

葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)は、乳房にできる比較的まれな腫瘍の一種で、良性から悪性まで様々なタイプが存在します。葉状腫瘍は、乳腺の間質(結合組織)と上皮組織から発生し、腫瘍内に葉のような構造が見られることからこの名前がついています。

葉状腫瘍の特徴

1.成長が早い葉状腫瘍は、良性であっても比較的急速に成長することがあります。
大きな腫瘍になることもあり、しこりとして感じられるケースも多くみられます。

2.良性〜悪性まで良性のものは線維腺腫に似ていますが、悪性の場合は乳がんに似た性質を持ち、周囲の組織に浸潤したり、再発しやすいことがあります。
悪性の場合は転移する可能性もあります。

葉状腫瘍の診断と治療

1.診断超音波検査やマンモグラフィーなどの画像検査が行われますが、最終的な診断には組織診(腫瘍の一部を取り出して顕微鏡で調べること)が必要な場合もあります。

2.治療良性であっても、腫瘍の成長が早いために外科的切除が推奨される場合もあります。悪性の場合、切除範囲を広げたり、場合によっては乳房全体の切除が必要なこともあります。悪性葉状腫瘍の場合、再発や転移のリスクがあるため、治療後の経過観察が重要です。

葉状腫瘍は良性の場合は再発リスクが低く、悪性でなければ比較的予後は良好です。葉状腫瘍と診断されたら、定期的な検診に行くよう心がけましょう。

乳腺のう胞

のう胞(嚢胞、のうほう)とは、液体や半固形物が溜まった袋状の構造物を指します。のう胞は体のさまざまな部位にできることがあり、乳房にもよく見られます。乳房にできた場合、乳腺内に形成されるのう胞は乳腺のう胞と呼ばれ、一般的には良性で、特にがんなどの悪性腫瘍を心配する必要はありません。

乳腺のう胞の特徴

1.柔らかく、動かしやすい触るとやや柔らかく、しこりが動きやすいことが多いです。

2.痛みがない通常、のう胞自体は痛みを伴いませんが、のう胞が大きくなったり、月経周期によってホルモンの影響を受けて乳房が腫れることがあります。

3.さまざまな大きさのう胞の大きさはさまざまで、非常に小さいものから数センチにわたるものまであります。

4.単発または多発一つだけできることもあれば、複数ののう胞ができることもあります。

乳腺のう胞の診断と治療

1.診断超音波検査で液体の入った袋状構造が確認されることで、のう胞と診断されます。通常、がんとは区別が容易です。ただし、細胞成分が含まれるであろうのう胞の場合には、のう胞内がんの可能性があります。針生検で組織を採取し、診断することが必要な場合もあります。

2.治療基本的に治療は不要で、自然に消えることもあります。ただし、のう胞が大きくなり不快感を感じる場合や、疑わしい場合には、針で液体を抜く処置(穿刺吸引)が行われることがあります。この処置により、しこりや痛みが軽減することがあります。

乳管内乳頭腫

乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)は、乳房の乳管内にできる良性の腫瘍で、特に乳頭や乳管の内側に発生します。乳管内乳頭腫は単発または多発の形で現れ、乳房のしこりや乳頭からの分泌物が見られることがあります。

乳管内乳頭腫の特徴

1.良性の腫瘍乳管内乳頭腫は良性で、乳がんに進行することはまれです。ただし、まれに悪性化するリスクもあるため、定期的な診察が重要です。

2.乳頭からの分泌物最も特徴的な症状は、乳頭からの分泌物(血性や透明な液体)があることです。特に、片方の乳房から分泌が見られる場合には、乳管内乳頭腫が疑われます。

3.しこりしこりとして感じることもありますが、小さな場合は触診ではわからないこともあります。

4.幅の広い年齢層乳管内乳頭腫は、30代後半から50代の女性に多く見られますが、他の年齢層でも発生することがあります。

乳管内乳頭腫の診断と治療

1.診断超音波検査やマンモグラフィーなどが行われ、場合によっては細胞診や組織診(腫瘍の一部を採取して検査)が行われます。分泌物がある場合、分泌物そのものの検査が行われることもあります。

2.治療小さくて症状がない場合、特に治療の必要はないこともありますが、分泌物が続いたり、しこりが大きくなった場合には、外科的に乳管ごと腫瘍を摘出することが必要な場合もあります。

乳管内乳頭腫は良性腫瘍なので、摘出後の予後は良好です。ただし、稀に乳管内乳頭腫と乳がんが同時に存在することがあるため、通常摘出後の病理検査が行われます。乳管内乳頭腫と診断されたら、定期的な検診を受けることを心がけましょう。

乳腺症

乳腺症(にゅうせんしょう)とは、乳腺に起こる良性の疾患で、主に女性に見られます。乳腺の過形成や炎症、乳腺組織の繊維化が原因で、乳房のしこりや痛みを伴うことが特徴です。ホルモンバランスの変化、特に月経周期や更年期による影響が関与していることが多いです。
症状としては、乳房の痛み、しこり、乳頭分泌が見られることがありますが、通常はがんではなく、悪性化するリスクも低いです。ただし、症状が乳がんと似ているため、適切な診断が必要です。とくに、硬化性腺症タイプの乳腺症の場合は乳がんとの見分けが難しいため(内部に硬化性腺症内がんを含む可能性がある)、生検での確認を行う必要があります。

乳腺炎

乳腺炎(にゅうせんえん)は、乳腺が細菌感染によって炎症を起こす疾患です。特に授乳中の女性に多く見られますが、授乳していない女性にも発生することがあります。乳房が赤く腫れ、痛みや発熱を伴うことが特徴です。

乳腺炎の特徴と原因

乳腺炎は、授乳中に乳頭にできた傷やひび割れを通じて細菌が乳腺に入り込むことで発生します。黄色ブドウ球菌や連鎖球菌が原因菌として多いです。また、乳管の詰まり(乳汁の滞留)も原因となり、そこに細菌が繁殖することがあります。

1.急性乳腺炎特に授乳初期に多く、突然乳房が痛くなり、腫れや赤みが出ます。発熱や悪寒も伴うことがあり、症状が進行すると膿瘍(のうよう)ができることもあります。

2.慢性乳腺炎急性乳腺炎が治りきらず、慢性的に炎症が続く場合や、授乳していない女性に発生することがあります。

乳腺炎の症状

1.乳房の腫れ乳房が硬くなり、腫れて痛みを伴います。

2.赤み炎症を起こした部分が赤くなります。

3.発熱・悪寒発熱が生じる場合があり、体がだるくなることもあります。

4.膿(うみ)の形成重症化すると、膿が溜まることがあり、これを乳腺膿瘍と呼びます。

乳腺炎の診断と治療

症状や触診、必要に応じて超音波検査で診断されます。感染の原因が疑われる場合、細菌培養検査も行われます。乳腺炎と診断がついた場合、早期に治療することで症状が軽減します。主な治療法は以下の通りです。

1.抗生物質や痛み止め細菌感染を治療するため、抗生物質が処方されます。また、痛みや発熱を抑えるため、鎮痛剤が処方されることもあります。医師からのお薬は、授乳中でも内服が問題ないものを処方いたしますのでご安心ください。

2.授乳の継続乳腺炎になっても、授乳を続けることが推奨されます。授乳を続けることで、乳汁の滞留を防ぎ、回復を早めることができます。また、母乳マッサージは乳腺のつまりを解消することに効果的です。

3.膿瘍の切開排膿膿が溜まっている場合、外科的に膿を排出する必要があります。

乳腺炎の予防

授乳中の女性は、乳房を清潔に保つことや、乳汁の滞留を避けることが重要です。また、授乳の際には正しい授乳姿勢を心がけ、乳頭に負担がかからないようにすることも大切です。日ごろから赤ちゃんにたくさん母乳をあげ、母乳が溜まらないように注意しましょう。赤ちゃんに母乳をあげるときは、右と左、両方の乳房を平均的にあげましょう。母乳の出方が左右で異なる場合は、先に出が悪い方をあげるのがお勧めです。
乳腺炎は早期治療で回復が期待できますが、放置すると膿瘍を形成し、外科的処置が必要になることもあるため、症状が見られたら早めに医師に相談するようにしましょう。