主な疾患と治療法(診療内容)Treatment Details

胃がんの治療について

胃がんの治療には、経口内視鏡による治療(ESD)、外科治療、薬物療法があります。
早期胃がんのうち、ほとんどリンパ節転移がないと考えられる方は内視鏡による治療(粘膜下層剥離術、ESD)により、治癒が可能です。

外科治療

早期胃がんでも粘膜の下に浸潤するものでは約20%のリンパ節転移の可能性があり、また、それ以上に進行したものでは外科手術が必要となります。当院で胃がんの手術をうけた方は、開院以来1800人以上となります。
胃がんの手術のうち、定型手術と呼ばれるものには、胃全摘と広範囲幽門側胃切除があり、再建方法には図1、2のようなものがあります。

しかし、これらの定型手術をおこなった場合には、術後に小胃症状(すぐ満腹になる)や、ダンピング症状(食後にめまい、冷や汗、腹痛、下痢)や、逆流症状(胸やけ)などの胃切除後症候群に悩まされることも多くなります。
これらの術後愁訴をなくし、術前とできるだけ近い生活をおくっていただくためには、出来るだけ胃の切除範囲を少なくする必要があります。
このため、当院が約20年前から行っているのが下記のセンチネルノードナビゲーション手術(SNNS)による機能温存縮小手術です。
これは当院・磯﨑が岡山大学第1外科にて、日本初の多施設共同研究で開発したもので、おおもと病院で臨床応用したものです。早期胃がんかそれに近い胃がんに施行可能で、手技としては、手術中に経口内視鏡を用い、癌周囲にリンパ行性の色素を注入して、色素が流れ込むセンチネルリンパ節を、手術中に迅速病理診断して、転移がなければ、色素の流れ込むリンパ領域のリンパ郭清と小範囲の胃切除を行うもので(図3)、種々の術式となり、それぞれ術後の生活の質が良くなります(図4)。

胃切除後障害の評価には、患者様の胃切除後の愁訴を総合的に見つける物差しが必要で、これに日本で開発したPGSAS-45を使用して、センチネルノードナビゲーション手術の術後生活の質は定型手術よりきわめて優れていること、術後の生存率も良好であったこと、これらはいずれも英文論文として報告しています。

胃がんの抗がん化学療法

術後の再発を予防するための、抗がん剤としては、通常TS-1の内服療法が行われますが、再発の危険が強い場合には、ドセタキセルが追加されます。術前の抗がん療法の有効性はまだ示されていませんが、累々とした大きなリンパ節転移あがあり場合には、術前抗がん療法が有用な場合もあります。最初から、切除が困難やステージⅣ胃がんの場合には、免疫チェックポイント阻害剤であるオプジーボを含んだ抗がん化学療法を行います。この療法により手術が可能になる場合(コンバージョン手術)が10%程度あります。

胃ポリープについて

胃ポリープは、胃の内壁(粘膜)に発生する良性の病変で、胃の粘膜から突出した形をしています。多くの場合無症状であり、内視鏡検査で偶然発見されることが多いです。胃ポリープの大部分は良性ですが、種類によってはがん化するリスクがあるため、定期的な経過観察が必要です。

胃ポリープの種類

胃ポリープは主に3つのタイプに分類されます。

1.胃底腺ポリープ胃の上部に比較的よくできるポリープで、ほとんどのポリープがこれに該当します。良性でがん化のリスクが非常に低いのが特徴です。胃底腺ポリープは通常、ピロリ菌感染とは無関係に発生します。また、プロトンポンプ阻害薬(胃酸を抑える薬)を長期間使用している人に多く見られることがあります。

2.過形成性ポリープ胃の粘膜が炎症や刺激を受けて増殖した結果、形成されるポリープです。ピロリ菌感染が原因でできる場合があります。過形成性ポリープは通常がん化のリスクが低いとされていますが、大きくなるとリスクが増すことがあります。

3.腺腫性ポリープまれに見られるタイプのポリープで、がん化するリスクが最も高いとされています。大腸ポリープとの関連性があり、同じ患者に大腸ポリープが存在することもあります。このタイプのポリープが発見された場合、積極的な治療や経過観察が必要です。

胃ポリープの症状

胃ポリープ自体はほとんどの場合、無症状です。そのため、内視鏡検査で偶然発見されることが多いです。

胃ポリープの診断

胃カメラが最も一般的な診断方法です。内視鏡を使って胃の内部を観察し、ポリープの形状や大きさ、数を確認します。また、生検(組織の一部を採取して調べること)を行い、ポリープが良性か悪性かを判断します。特に、腺腫性ポリープや大きな過形成性ポリープは生検で精査されることが多いです。

胃ポリープの治療

多くのポリープ、特に小さくてがん化のリスクが低い場合、特別な治療は必要ありません。定期的な内視鏡検査でポリープの大きさや形の変化を監視します。ポリープが大きい場合や、腺腫性ポリープなどがん化のリスクがある場合、内視鏡的切除が行われます。内視鏡を使ってポリープを摘出し、病理検査でがん化の有無を確認します。
このように、胃ポリープはほとんどの場合が無症状で良性ですが、種類や大きさによってはがん化のリスクがあるため、定期的な検査や経過観察が必要です。症状がない場合でも、定期的な内視鏡検査を受け、早期発見・早期治療を心がけましょう。

胃炎について

胃炎とは、胃の粘膜に炎症が生じる状態を指します。急性のものから慢性のものまでさまざまなタイプがあり、原因や症状も多岐にわたります。胃の不快感や痛み、吐き気などの症状が特徴的ですが、偶然胃カメラで見つかる無症状のものもあります。胃炎は一過性の場合もあれば、長期間にわたって続くこともあり、その原因に応じて適切な治療や生活習慣の改善が必要です。

胃炎の分類

胃炎は大きく急性胃炎と慢性胃炎に分けられます。

1.急性胃炎短期間で急激に発症する胃の炎症です。飲酒や薬剤の影響、ストレス、細菌やウイルス感染などが原因となることがあります。症状が突然現れ、腹痛や吐き気、嘔吐などが見られることがあります。

2.慢性胃炎長期間にわたって胃の粘膜に炎症が続く状態です。ピロリ菌感染や長期間のストレス、不適切な生活習慣などが関与しています。症状は軽度であることが多いですが、慢性的な胃の不快感や食欲不振が続く場合があります。

胃炎の主な原因

1.ピロリ菌感染ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の粘膜に感染し、慢性胃炎や胃潰瘍、胃がんの原因となることが知られています(詳細は内視鏡検査のページをご参照ください)。ピロリ菌が感染すると、胃の防御機能が低下し、粘膜が炎症を起こしやすくなります。

2.薬剤(特にNSAIDs)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアスピリンなどの鎮痛剤は、胃の粘膜を保護する物質(プロスタグランジン)の生成を抑制し、胃炎や胃潰瘍を引き起こすことがあります。とくに、長期間の使用や高用量での服用がリスクを高めます。

3.アルコールと喫煙飲酒や喫煙は、胃粘膜を直接刺激し、胃の防御機能を低下させ、胃炎の原因となります。

4.ストレス精神的・身体的ストレスは、胃酸の分泌を過剰に促進し、胃粘膜を傷つけることがあります。これは急性ストレス性胃炎として知られており、重症の場合、胃の出血を伴うこともあります。

5.不適切な食生活食べ過ぎや刺激物の大量摂取、不規則な食事も胃に負担をかけます。

胃炎の症状

胃炎の症状は、その原因や進行具合によって異なりますが、一般的な症状は以下の通りです。

1.胃の痛みや不快感食後や食前に感じることが多く、間欠的に痛くなったり痛くなくなったりします。

2.吐き気・嘔吐胃が刺激されると吐き気や嘔吐が生じることがあります。

3.食欲不振胃の炎症や不快感により、食欲が低下することがあります。

4.腹部膨満感ガスが溜まりやすくなり、腹部に張りを感じることがあります。またまれに、出血を伴う胃炎の場合、便が黒くなることがあります。

胃炎の診断

胃炎の診断には、おもに胃カメラを用います。胃の内部を直接観察し、粘膜の炎症の有無や程度を確認します。必要に応じて組織検査(生検)が行われます。

胃炎の予防

胃炎を予防するためには、以下のポイントを守ることが大切です。

1.ピロリ菌の除菌ピロリ菌感染が確認された場合、除菌治療を受けることで胃炎や胃潰瘍の予防が可能です。

2.生活習慣の改善アルコールやタバコは胃粘膜を刺激するため、これらを控えることが推奨されます。また、刺激物の取りすぎには注意しましょう。

胃炎は多くの要因によって引き起こされる疾患であり、軽度な場合は自然に治癒することもありますが、長期間放置すると潰瘍やがんのリスクが高まることがあります。原因に応じた治療と生活習慣の見直しを行うことで、胃の健康を維持し、症状を軽減することが可能です。

胃潰瘍について

胃潰瘍とは、胃の内壁を覆う粘膜が、胃酸や消化酵素によって傷つけられて深い傷(潰瘍)ができる状態を指します。胃酸は食物の消化に必要なものですが、過剰に分泌されたり、防御機能が低下すると、胃粘膜を傷つけて潰瘍を引き起こすことがあります。胃潰瘍は、慢性的な腹痛や吐き気などの症状を伴うことが多く、治療せずに放置すると、出血や穿孔(穴が開く)といった重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

胃潰瘍の原因

胃潰瘍の主な原因は以下の通りです。

1.ピロリ菌感染ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、胃の粘膜に感染し、炎症を引き起こします。この細菌が長期間にわたって胃の粘膜に影響を与え、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こすことが知られています。ピロリ菌は特に胃潰瘍の大きな原因の一つです(詳細は、内視鏡検査のページをご参照ください)

2.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)ロキソニンやイブプロフェンなどの鎮痛剤を長期間使用することは、胃の粘膜を保護するプロスタグランジンの分泌を抑制し、胃粘膜の防御機能を低下させます。その結果、胃潰瘍が発生するリスクが高まります。

3.ストレス精神的・身体的ストレスは、胃酸の分泌を促進し、胃粘膜を傷つけやすくします。急性ストレスや重篤な疾患によるストレスは、潰瘍の発生リスクを高めます。

4.生活習慣喫煙や過度の飲酒は胃粘膜を刺激し、胃潰瘍の原因となることがあります。

胃潰瘍の症状

胃潰瘍の症状は、その人の状態や潰瘍の大きさ、部位によって異なりますが、一般的な症状は以下の通りです。

1.上腹部の痛み食後や食前に胃の痛みが現れることが多く、間欠的に痛くなったり痛くなくなったりするのが特徴です。痛みは鈍い痛みから鋭い痛みまで様々です。

2.吐き気・嘔吐胃が刺激されることで、吐き気や嘔吐が生じることがあります。重症の場合、血液が混じることもあります。

3.胸やけ胃酸が逆流し、胸やけを引き起こすことがあります。

4.食欲不振胃の不快感や痛みにより、食欲が減退することがあります。

5.体重減少食事量が減ることで体重が減少することがあり、長期間続く場合は栄養不良になることがあります。また、潰瘍から出血がある場合、消化された血液が便に混ざり、黒色便(タール便)として現れることがあります。

胃潰瘍の診断

胃潰瘍の診断は、おもに胃カメラを用いて行われます。胃潰瘍の診断に最も確実な方法で、内視鏡を用いて胃の中を直接観察し、潰瘍の大きさや場所を確認します。一般的には、生検(組織の一部を採取して検査)を行い、がんの可能性を排除する必要があります。また、ピロリ菌の感染を確認するために、ピロリ菌検査を行う場合があります。

胃潰瘍の治療

胃潰瘍の治療は、原因と症状の重さによって異なりますが、薬物治療を行うのが一般的です。プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーで胃酸の分泌を抑えて、潰瘍の治癒を促進します。また、ピロリ菌が原因の場合、ピロリ菌の除菌を行います。除菌療法により、潰瘍の再発リスクが大幅に低下します。また、胃潰瘍が重傷で穿孔(穴が開く)をきたしていた場合、胃の内容物が腹腔に漏れ出し、腹膜炎を引き起こす可能性があります。これは命に関わる緊急事態です。とくに消化液が腹腔内全体に回っていた場合や薬物治療が効果を示さない場合は手術が選択されることもあります。

胃潰瘍の予防

胃潰瘍の予防には、以下のようなものがあげられます。

1.ピロリ菌の除菌ピロリ菌感染が確認された場合、除菌治療を行うことで胃潰瘍の予防が可能です。

2.薬の適切な使用鎮痛剤を長期間使用する必要がある場合、医師と相談し、胃酸を抑える薬を併用して処方してもらうようにしましょう。

3.生活習慣の改善タバコとアルコールを控えることで、胃粘膜の防御機能を保つことができます。
また、バランスの取れた食事を心がけ、胃に負担をかける食品を避けることが大切です。

胃潰瘍は、ピロリ菌感染や薬剤、生活習慣が原因となり、胃の粘膜に深い傷ができる病気です。早期に診断し、適切な治療を行うことで、症状を改善し、再発を防ぐことができます。定期的な検診やピロリ菌の除菌、生活習慣の見直しによって、胃潰瘍の予防や早期治療を心がけましょう。

逆流性食道炎について

逆流性食道炎とは、胃酸が食道に逆流し、食道の粘膜に炎症を引き起こす病気です。通常、食道と胃のつなぎ目にある筋肉が逆流を防ぐ役割を果たしていますが、この筋肉が弱まったり、働きが不十分だと、胃酸が食道に逆流してしまいます。食道は胃のように強い酸に耐える構造ではないため、逆流が繰り返されると食道の粘膜が炎症を起こし、痛みや不快感などの症状が現れます。

逆流性食道炎の原因

逆流性食道炎の原因は、胃酸の逆流を引き起こすさまざまな要因があります。主な原因として以下が挙げられます。

1.下部食道括約筋の機能低下食道と胃のつなぎ目にある下部食道括約筋が正常に機能しないと、胃の内容物や胃酸が食道に逆流します。加齢や肥満、妊娠などによってこの筋肉が弱まることがあります。

2.食生活の影響暴飲暴食や、夜遅くの食事も胃酸の逆流を促進します。

3.ストレス精神的なストレスは、胃酸の分泌を増加させ、胃や食道に悪影響を及ぼすことがあります。

逆流性食道炎の症状

逆流性食道炎の症状は、胃酸が食道に逆流することで引き起こされる胸やけが代表的です。その他の症状も含め、以下のような症状が一般的です。

1.胸やけ胃酸が食道に逆流し、胸骨の後ろや喉に焼けるような不快感や痛みを感じる症状です。特に食後や横になったとき、夜間に症状が悪化することがあります。

2.呑酸(どんさん)酸っぱい液体や苦い液体が喉元まで逆流してくる感じで、不快感を伴います。特に横になると、胃酸が逆流しやすくなります。

3.喉の違和感喉に違和感や異物感を感じたり、咳が出たりすることがあります。逆流性食道炎は慢性的な咽喉頭の炎症を引き起こすことがあります。

4.声のかすれ胃酸が喉や声帯に影響を与えることで、声がかすれたり、声が出にくくなることがあります。

5.咳や喘息様の症状胃酸が気道に逆流することで、咳や喘息のような症状が現れることがあります。

6.胸の痛み胸や背中に痛みを感じることがありますが、この症状は心臓病と似ているため、慎重な診断が必要です。

逆流性食道炎の診断

逆流性食道炎の診断には、症状の確認に加えて、おもに胃カメラを用います。食道や胃の内部を直接観察し、食道の炎症や粘膜の損傷の程度を確認します。

逆流性食道炎の治療

逆流性食道炎の治療は、生活習慣の改善と薬物療法が基本です。プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーで、胃酸の分泌を抑制し、食道の炎症を抑えます。また、就寝前の食事や食後すぐに横になることも、胃酸の逆流を助長するため、控える必要があります。就寝時は頭を高くして寝ることで、胃酸の逆流を防ぐことができます。

予防と管理

逆流性食道炎を予防し、症状をコントロールするためには、以下の点に注意が必要です。

1.規則正しい食生活食事の時間を一定に保ち、夜遅くに食事をしないように心がけましょう。

2.適切な生活習慣肥満は胃酸の逆流を助長することがあるので、体重管理を心がけましょう。また、ストレスが胃酸の分泌を促進することがあるため、ストレスはためすぎないようにすることも大切です。

逆流性食道炎は、胃酸の逆流によって食道が炎症を起こす病気で、生活習慣や食事の見直しが重要です。薬物療法や生活習慣の改善で症状をコントロールし、必要に応じて専門医の診察を受けることで、合併症を防ぎ、日常生活の質を向上させることができます。