主な疾患と治療法(診療内容)Treatment Details

胆石症について

胆石症は胆のう結石と総胆管結石に分かれます(図1)。
肝臓でつくられた胆汁は肝門部で合流したあと本流となって十二指腸乳頭部から十二指腸に流出します。この途中に肝臓に半分埋まったような胆のうがあり胆のう管で総胆管と交通しています。総胆管は川の本流で、胆のうはため池にあたります。したがって、ため池にできた胆のう結石は、すべてに手術が必要なわけではありません。

胆のう炎を起こした場合(石が胆のう管に嵌頓)
2.肝障害を起こした場合
3.胆のうが結石で充満して胆のうの壁が見えない場合
4.胆のうがんが疑われる場合などは、胆のう摘出術の適応となります。
胆のう摘出術のほとんどは腹腔鏡手術で行います。

総胆管結石の多くは胆嚢から胆嚢管経由で落下したものですが、最初から総胆管内にできるものもあります。総胆管結石が見つかった場合には早期の処置が必要となります。閉塞性胆管炎という重篤な状態になり易いからです。
第一の方法は口から十二指腸内視鏡を入れて、胆管と膵管の両方の十二指腸への出口である十二指腸乳頭部を切開して胆管の末端部を切開して胆管から石を取り出す方法でESTと言います。ESTをしておいて、その後、胆のうから総胆管に石が落下する(胆のう管を通じ)のを予防するために、腹腔鏡で胆のう摘出術を行うのが、通常の方法です。
なんらかの理由で、ESTができない場合(胃癌の術後で十二指腸が切断閉鎖されている、あるいはどうしても胆管にカテーテルが挿入できない)には開腹手術となります。
開腹手術は右上腹部肋弓下に10㎝程度の切開を行います。胆管を切開して、生食でフラッシュしたり、胆道鏡を使ったりして、胆石を取り出します。以前はこのあとT-Tubeを総胆管に挿入して、3週間後に瘻孔が完成してから抜去していましたが、最近は胆のう摘出後に胆のう管から細いC-tubeを挿入して胆のう管ごとゴムで縛り、総胆管の切開部を細い吸収糸で連続縫合し、4-5日後、胆汁が漏れないことを確認してC-tubeを抜去します。したがって、総胆管結石の場合でも、約1週間で退院が可能です。

膵疾患について

膵炎にはアルコール性、胆石に起因するもの、自己免疫性、その他などの種類があり、原因に応じた治療をします。
膵癌は最近増えた疾患です。症状が少なく発見時には切除できない場合もあり、その場合は抗がんの薬物療法を行います。
胆管や膵管の近くに発生した場合は黄疸や膵炎の所見から、早期の膵癌が発見される場合があり、この場合は膵頭十二指腸切除や膵体尾部・脾切除により根治手術が可能です。当院でも数人の長期生存者が存命しています。

膵疾患について

当院で行っている肝切除の多くの症例は、大腸がんや胃がんの肝臓への転移例です。大腸がんが発見されると同時にすでに肝臓転移がある場合(同時性肝転移)には、大腸がんと肝臓の転移を同時に手術します。大腸がんの手術後何年か後に肝臓に転移が生じる場合(異時性肝転移)もあり、この場合も肝臓転移を切除します。

肝切除時の出血コントロール方法について

肝臓には肝動脈と門脈(小腸からの栄養成分を運ぶ)から大量の血液が流入し、肝臓で代謝され、肝静脈から下大静脈に流出しています(図2)。したがって、肝臓の切除術は出血との闘いとなります。
肝切除時の出血の制御法として、肝門部の肝・十二指腸靭帯を肝動脈・門脈・胆管ごと締め上げて、肝臓に流入する血流を遮断するPringle 法がよく使われます(図3)。

人間の場合はこの方法で約1時間の血流遮断が可能ですが、犬やRatでは短時間でも門脈うっ血のため死亡してしまいます。著者(磯﨑)は1988年から1989年に、約1年間フランスパリ大学・ポールブルス病院、肝胆膵・肝移植部門(ビスムート教授)に留学して、黎明期の肝臓移植に従事していました(ドナー手術約50例を担当)。その頃、ビスムートはtotal vascular exclusion法1)として、pringleによる肝門部の血流遮断に加えて、下大静脈も遮断して、肝静脈からのバックフローも遮断し、完全無血野で肝切除を行っていました(平均血流遮断時間約50分)(図3)。同じくフランスのウゲ教授2)がtotal vascular exclusion法で65分まで可能と発表していたからです。一方、日本では当時、国立がんセンター病院の幕内先生がpringle 法による15分遮断5分血流解放を繰り返す方法を推奨していました。そこで、私はビスムート教授に、なぜ一回の長時間阻血法を選ぶのかを質問しました。すると、肝阻血再灌流時には活性酸素による再灌流肝障害があり、数回の再灌流を繰り返すより1回の再灌流障害にとどめる方が肝細胞の障害が少ないとの回答でした。私は、どちらが良いか、Ratで実験させてほしいと申し出たところOKと承諾を得ました。前述のようにRatでは短時間の肝門部遮断で門脈うっ血のため死亡してしまいます。考えあぐねていると、研究室長であったアダムが門脈・下大静脈吻合(エック瘻)をつくり肝門部血流遮断の際には瘻を解放し門脈血を下大静脈に流入させ門脈のうっ血を防ぐ、血流再開の際には門脈・下大静脈吻合糸で縛って肝に門脈血が流れるようにし、実験が終わった際には完全に門脈・下大静脈瘻を結紮し元の循環動態に戻すというアイデアをだしてくれました(図4)。

総肝阻血時間は120分、90分、60分として、連続遮断10 Rats、30分遮断5分再灌流の繰り返し10Rats、15分遮断5分の再灌流の繰り返し10Ratsの計90Ratsを用いて実験をしました。最初はマイクロサージャリー下の門脈下大静脈吻合がむつかしく、安定した吻合を創るのに20以上のRatsが必要でした。例えば120分阻血を15分遮断5分の再灌流の繰り返しで行う場合には実験Ratに付いておよそ3時間を要するわけです。最後の方は見るに見かねて、Ratの肝移植の名人のStaffが手伝ってくれて、実験が進みましたが、徹夜することも度々でした。実験Rat血中の肝酵素、ATPなどの測定も自分行いましたが、留学期限が迫っていたので、すべての作業を2か月で行いました。結果は短時間遮断再灌流の繰り返しの方が1回長時間阻血より、肝障害が少ないとの結論でしたが30分と15分の間の明らかな差は認めませんでした。帰国後に論文を作成してBritish journal of Surgery に掲載することができました (3)。 この結果は当時、国立がんセンター病院の幕内先生が講演でよく紹介してくれたようです。
長々と説明しましたが、これらの結果から私は肝切除の場合は15分遮断、5分再灌流の繰り返しを基本としていますが、正常肝の場合には30分遮断、5分再灌流も十分に可能と考えています。

1) Bismuth H, Castaing D, Garden OJ. Major hepatic resection under total vascular exclusion. Annals of Surgery. 1989;210(1):13–19.

2)Huguet C, Nordlinger B, Galopin JJ, Bloch P, Gallot D. Normothermic hepatic vascular exclusion for extensive hepatectomy. Surg Gynecol Obstet. 1978 Nov;147(5):689–693.

3)Isozaki H, Adam R, Gigou M, Szekely AM, Shen M, Bismuth H. Experimental study of the protective effect of intermittent hepatic pedicle clamping in the rat. Br J Surg. 1992 Apr;79(4):310-3. doi: 10.1002/bjs.1800790409.